東京地方裁判所 昭和37年(ワ)10432号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕訴外小野田商事は昭和三六年六月一四日被告との間にカシミロン糸二八〇〇ポンドを代金一〇五八万円で買受けたが、同年六月一五日原告は被告との間の前記売買契約上の買主たる地位一切を包括的に譲受け、そのころ被告会社東京支店のメリヤス部員大須賀隆司にその旨を告げ同人はこれを承認し、約定の期限である同年八月二〇日までにカシミロン糸全量原告に引渡す旨を確約した。原告は被告の右承認の直後である六月一九日カシミロン糸の売買代金前渡金として九五二万円七、四〇〇円を被告に支払い、七月二七日被告に対し商品の引渡場所を指定した。ところが被告は七月二八日小野田商事との売買契約を合意解除し、前渡金は小野田商事に返還したと称してカシミロンの引渡に応ぜず、原被告間の売買契約は商法第五二五条により船積期限である同年八月三一日の経過により解除となつたので、原告は被告に対し交付した前渡金の返還を求めた。
被告は訴外小野田商事間との売買契約の成立は認めたがその他の原告主張の請求原因事実を否認し、原告は小野田商事の金主に過ぎないと主張した。
判決は証拠により原告主張の請求原因事実を認め、その請求を認容したが、標記の点すなわち売買契約上の買主たる地位の譲受けには売主の承諾が必要であるか否かの点についてはこれを積極に解し、つぎのとおり説明している。曰く。
「右買主たる地位の譲渡の場合は、契約から生ずる個々の債権債務のみならず、契約当事者たる地位そのものが包括的に移転するものと解するのが相当であるが、これを売主の立場からみるならば、代金支払債務が買主たる地位の譲受人へ移転することにより、債務者の責任財産が変更し、その結果売主が経済上不則の不利益を被るおそれが生じることになるのである。よつて、かかる契約は、売主の意思を無視して自由にこれをなすことを認めえず、少くとも債務引受の要件を充足する必要があるものと思料する。従つて買主たる地位の譲受人との間の契約のみでは売主に対して効力を生ぜず、売主の承認を得た時にはじめて売主に対して効力を生じるものと解すべきである」。(石田哲一)